消費者行動図鑑ができるまで 第2回
『分析結果から意味を見出す為に』(1/2)
 株式会社コレクシア 村山 幹朗 - 2014/5/27

分析結果の情報としての価値は?

 いわゆるマーケティングリサーチとして行われている定量調査における1つの限界は、数値やグラフ等の分析結果が、消費者のリアリティと独立して数字としてのみ存在している事です。その為、調査結果を受け取るクライアントサイドでは消費者を理解した実感が湧かず、その結果「で?」と言われてしまうケースが増えています。これは、多くの定量調査が形骸化して、手段の目的化が起こっている事に1つ原因があると思います。これがどういうことが、恐らく定量分析の中で一番有名であろう「平均」を例に考えてみたいと思います。

 平均はグループの特徴を記述する統計量の1つです。今ここに、プロモーションの効果をプリポストの比較で検証するという調査の結果があるとします。レポートには「ある変数を5段階スケールでアンケートした結果、平均は3.47ptで、プロモーション実施前と比較して0.22pt増加した。統計的に有意に増えたので、今回のプロモーションは成功と言える」と記載されています。そうでしょうか?Nを大きくすればいくらでも有意差を出すことは出来ますし、それ以前に統計的有意である事とプロモーションの成功は違うはずです。プロモーションの効果検証をスコープに分析をするなら、考えなければいけないのは「有意に増加したか否か」ではなく、「その変数が0.22pt増加したという事は、どういう意味なのか」という事です。

 人間の行動を理解するには、その行動が起こっている状況(コンテクストや文脈)込みで理解する必要があります。データはその状況の一部を反映した情報ソースであり、平均にはその状況の中で起こっている行動や態度の程度が表されているわけです。従って、その平均値が得られたコンテクストを理解して初めて、平均という統計量にマーケティング上の”価値”が生まれます。例えば同じ「平均で0.22pt増加した」でも、「この母集団はこういう文脈の中で生活をしていて、この商材はこういう買われ方をされている。この変数はその購買行動プロセス上重要なボトルネックを表現している。今回のプロモーションでは、その反応を増加させることに成功した為、今後ファネル停滞が解消され、購買行動プロセスが促進されると見込まれる」という文脈でプレゼンすれば、情報としての価値が上がるのではないでしょうか。

分析と消費者行動を分離しない

 毎日、モデリングや数値解析をしていて思うことは、調査や分析する側の文脈で分析結果を理解しようとすると、往々にして数字や統計が情報として活かされにくいという事です。マーケに限った事ではないですが、アナリティクスを学ぶ時には、分析結果のみに囚われず、データを生み出した行動主体や、データが生み出されるメカニズムの方に目を向けなさい、と教わります。つまりマーケなら、分析結果は消費者側の文脈で考える必要があります。

 「平均で0.22pt増加した、イコール成功だ」と、すぐ腹落ちする人はそういないわけです。であればその「平均で0.22pt増加した」という結果が、「消費者の購買行動プロセスの中でどういう変化を意味するのか」をまず理解し、次に「では、その変化はマーケティングにおいて何を意味するのか」という順で考えるべきなのではないでしょうか。平均を出すことも立派な分析です。しかし作業的に、消費者行動から離れた純然たる数値として扱う限り、平均という最も馴染みのある指標ですら(馴染み深いからこそ、なのかもしれませんが)、「分析として」腹落ち感や納得感を生み出す事は難しいのではないでしょうか。
 

株式会社コレクシア
村山幹朗

1984年、北海道生まれ。公立はこだて未来大学システム情報科学研究科博士前期課程修了。2011年、コレクシア設立。マーケティング・サイエンスと情報デザインが専門。市場調査クリニックやROI+等、分析から情報を創り提供する事業を展開。