消費者行動図鑑ができるまで 第1回
『図鑑を作ることになったあらまし』
 株式会社コレクシア 村山 幹朗 - 2014/5/16



消費者行動を知らなければ、データから有効な意味は見つけ出せない

 消費者行動図鑑では、市場にある様々な商材の選ばれ方や買われ方を、そのきっかけとなるコンテクストから購買、購買後の使用経験に至るまで、"リアルな"消費者の声を基に紹介し、そこから得られる製品開発やコミュニケーションへの示唆を提供しています。


 消費者行動図鑑をサービス化するきっかけは、そもそも消費者行動に関する基礎研究は豊富にあるものの、実務での応用研究や事例が圧倒的に少ないという背景でした。消費者行動図鑑を運営する(株)コレクシアは、マーケティングサイエンスを専門とするシンクタンクで、様々な数理モデル・アナリティクスを用いてデータから実務で使える情報を創るビジネスを展開しています。様々なデータでモデリングや解析アルゴリズムを開発・提供してきましたが、モデリングには、分析対象となる商材や消費者の行動モデルの「仮説」が必要です。モデリングは消費者行動や購買行動プロセスの模倣(モデル)だからです。


 例えば売上予測を行うとすれば、製品や広告に対する情報処理プロセスや購買行動プロセスを予測した結果として、売上が予測できるわけです。消費者セグメンテーションでも、購買行動や消費行動が異なるという仮説があるから消費者を分けるわけです。仮説の良し悪しでこれらのモデルは精度が変わるため、消費者行動に対する包括的な理解というのは分析者にとって必須になります。


で、この製品どうやって買われているんだっけ?

 しかし、例えばいざあるクライアントの商材の売上予測を行うとなった時「で、この製品どうやって買われているんだっけ?」という疑問が出てきます。これは分析担当にとってみれば、イコール「どうモデリング(変数選択、データ収集、立式など)すればいいの?」という疑問になります。いくら良い分析ソフトがあっても、入れるデータがゴミであれば結果もゴミです。モデリングにおいても、よい仮説を持たずに方程式を立式すれば、そのモデルにいくら良いデータを入れたところでゴミしか吐き出しません。


 データというのは、分析者が自分の”ひらめき”を評価する、いわゆる「正当化の文脈」において必要な材料です。モデリングは、それらの良質な仮説の検証を通して、(クライアントの課題という限定された環境において)一般化可能な結論(知識)を得ることに他なりません。従って、分析を用いて意味のある情報を創りだしていく際には、アブダクション(仮説生成)の質と量、そしてスピードが重要になります。つまり、分析者には「もしかして、それってこういう事なんじゃないの?」という「良質な仮説」を生成する為のサステナブルな仕組みや環境が必要なのです。



クライアント商材のリアルな消費者行動を調べられる仕組みを作ろう

 これに対して、アカデミアではこれまで様々な消費者行動理論やモデルが提唱されてきましたし、インターネットで検索すれば○○白書のような消費者動態調査、市場動向調査の結果は溢れています。しかし、これらはいずれも概念的なモデルであったり、消費者行動のある側面に限定された情報なので、ただちに分析実務に応用できるものではありませんでした。そこで、自分たちで手軽にクライアント商材のリアルな消費者行動を調べられる仕組みを作ることになりました。


 クライアントへの企画書や報告書の中に、「御社の商材はこう買われているようですよ」という消費者行動や購買意思決定についてのファクトレポートを入れ込んで分析結果と共に紹介した所、様々な業界のクライアントから、「実は自分たちも自社商品がどう選ばれ、購買されているのかよく知らないから、ゆずって欲しい」との声が聞かれるようになりました。


 良質な仮説が必要なのは、何もアナリストだけではありません。クライアント企業の実務家、代理店のプランナー、営業マン、マーケティングにかかわるおよそ全てのプロフェッショナルは、本来、エンド消費者の態度変容や購買行動についてそれぞれの立場・視点から、こういうことなんじゃないの?という仮説的な視点が提供されるべきであり、その視点に基づいた活動の結果、その視点が支持されるのか棄却されるのか、という科学的なPDCAを回していくべきだと思います。その一助となればと思い、今回、「消費者行動図鑑」を1つの独立したサービスとして立ち上げる運びとなりました。


  

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株式会社コレクシア

村山幹朗

1984年、北海道生まれ。公立はこだて未来大学システム情報科学研究科博士前期課程修了。2011年、コレクシア設立。マーケティング・サイエンスと情報デザインが専門。市場調査クリニックやROI+等、分析から情報を創り提供する事業を展開。